金沢のフェミニズムズ展でフェミニズムを考える

現在、金沢の21世紀美術館において開催されているフェミニズムズ展に行ってきた。
雪がつもる金沢で、フェミニズムズ(複数形)について考える時間になった。
このフェミニズムズ展と同時開催で、もう一つの特別展「ぎこちない会話への対応策-第三波フェミニズムの視点で」も開催されていた。
この2つの特別展がフェミニズムをテーマに、公共の美術館で開催されていることに感動を覚える。2020年に、千葉の国立歴史民族博物館で「性差(ジェンダー)の日本史」展が開催されたことも記憶に新しいが、ジェンダーやフェミニズムが展覧会の目玉になる時代をとても嬉しく感じながら、東京から金沢まで3時間かけて見に行ってきた。

性差の日本史展とは異なり、フェミニズムズ展はアートからフェミニズムを見るというスタイルだ。性差の日本史では歴史的なオブジェクトの展示と、それに伴う歴史的なジェンダーという概念の変化を縄文時代から現代まで見ていくという壮大な歴史展示であった。一方でフェミニズムズ展は複数のアーティストがフェミニズムという観点で作り上げた現代アートの展示が主流であり、アートを読み解く作業が鑑賞者には求められる。
特に「ぎこちない会話への対応策-第三波フェミニズムの視点で」は、ゲストキュレーターの長島有里枝氏が90年代のアートをフェミニズムという視点で再解釈するというテーマで作品を集めているため、個人的にはフェミニズムズ展よりも作品の読み解きが難しいと感じた。それぞれの作品は(詳しい解説の載ったパンフレットがあるものの)一見すると「どこがフェミニズムなんだろう?」と思われるようなものも多く、かなりハイコンテクストな理解が求められる。一方で、第三波フェミニズムにおいて特徴的であった「連帯」ではなく「個」の意識を強く感じられるものが多かったように感じる。特に「フェミニスト」でも「フェミニズムアート」を意識して作成したわけではないけれども、表現の中にはエージェンシーがあったり、家父長制やジェンダー規範への疑問が投げかけられている、といったような作品が多くみられる特別展だった。

一方で、フェミニズムズ展は非常に「わかりやすい」形で、様々なアーティストがそれぞれのフェミニズム(なので複数形になっているかと思われる)を作品に表現している。特に個人的に面白かったのは、「Shadow of a coin」という作品だ。丸い刺繍作品が複数、天井からつるされ、その影(シャドー)が展示室の壁に浮かび上がるという作品なのだが、刺繍の中には家事をこなす女性の姿や、スティグマに対してNOという女性の姿が描かれている。刺繍という「女性の仕事」とされてきたものを題材に、報酬が支払われない女性の仕事(シャドーワーク)を描いている作品であり、とても興味深かった。

他にも、西山美なコ氏のテレクラをモチーフにした作品は「女性らしさ」と「エロ」が両方ともピンクという色で描かれ、いかに女性を消費していく文脈でつかわれていたかを描いている。実際にピンクの広告につられて電話を掛けてきた男性の声をQRコードから聞くこともできる。

その他にもたくさんのアーティストがそれぞれのフェミニズムをアートで表現している。
当日はまれにみる大雪で、足元がおぼつかない中やっとたどり着いた展覧会であったが、価値のある時間が過ごせた。
両展覧会は3月13日まで金沢の21世紀美術館で開催されている。