フィラデルフィア生活記【住居編】

フィラデルフィアという街に5年ほど住んでいたことがある。東部にあるペンシルベニア州で最も大きい都市であり、アメリカ建国の地だ。
フィラデルフィアに移り住むまでに、アイダホ州のルイストンという小さい田舎町やマサチューセッツ州のノーザンプトンという大学街にも住んだことがあったが、アメリカは本当に地域によって文化が違うなぁと思い知らされるほど、異なる生活経験をしたと思っている。

さて、アメリカでの生活を始めるにあたってまず必要なのは住む場所である。
学部時代の留学ではホームステイや寮生活を送ったのだが、大学院は期間も長いし、なんとなくアメリカでアパートを借りて生活してみたい、という気持ちもあり、アパート探しを始めた。
お金に余裕のある人は、現地に行って、見てまわることで大家さんからの信頼なども得られるのかもしれないが、私の場合は日本にいながらアパートを探したので、なかなか難しかった。

【フィラデルフィアの賃貸事情】
アメリカでのアパート探しは日本とちょっと異なる。日本ではほとんどの大家さんが仲介会社を利用するので、どこかの業者にいって一緒に探してもらうというのが一般的だ。しかし、フィラデルフィアでは仲介会社を経由して探すとなかなかしっかりした、お高いアパートにしか巡り合えない。
多くの学生は、一軒家を友達と借りたり、見知らぬ他人とアパートをシェアしたりすることが多い。
割と大きな都市だったということもあり、安全な地域で一人暮らしをしようと思うと1000ドル近くするため、私はシェア物件を探すことにした。
仲介会社を介さないアパートの探し方を調べていたところ、Craigslistという地域ごとに情報をやり取りしたり物を売り買いしたりするページを友人に教えてもらった。日本でいうジモティーのようなサイトだと思う。
ここで、予算やエリアなどを選択して、募集中のアパートを探すのだ。

【外国人という壁】
素敵なアパートは簡単にたくさん見つかった。東京での一人暮らしをしていたことを考えると、シェアでも十分に広いベッドルームや大きなキッチンなど、素敵な物件がたくさん出てきて写真をみるだけでもわくわくした。
が、ここからが問題だった。
賃貸契約は直接大家さんもしくはシェア相手を探している人と結ぶのだが、お互い知らない相手なので信頼してもらうのがとんでもなく難しい。日本に住んでいる外国人であればなおさらだ。
本来であれば、直接見に行って、人柄も知ってもらい、デポジット(敷金のようなもの)を渡すことで信頼を得られるのだが、いきなり知らない外国人からメールが届いても、ほとんどの大家さんは面倒なので返事を返してくれないのだ。
何十件といろいろなところにメールをしても全く返事が返ってこないのは、なかなか心が折れる。もうあきらめて大学の寮に住もうかな、と考え始めたころに、やっと一通返事が返ってきた。
メールをくれた大家さんは、私のFacebookをチェックしたらしく、たまたま大家さんが通っていたアメリカの女子大学に私が留学していたのを見て信頼してくれたらしい。
リベラルアーツの小さい大学だが、女性がアイビーリーグに入学できなかった時代に、女性教育の先駆けとしてできた大学で、シスターフットを大事にしていたというのも大きかったのかもしれない。
とにかく、やっとの思いで返事をもらえたことに喜びつつ、一度スカイプで話をしたいと言われたので、とても緊張しながらスカイプで話したのを覚えている。

【自分の部屋をみるまで】
顔を見て、話をして、住んでもいいよ、といわれ一安心したものの、知っているのは住所だけである。
そこから1か月ほど、渡米するまでの間に何度もグーグルマップでその住所を調べて、建物の写真を見た。
当日の飛行機の到着は夜の予定で、真っ暗な中タクシーで家までたどり着くまで、本当にちゃんとそこに家があるのか、写真通りの部屋なのか、ちゃんと契約できているのか、ずっと不安だった。
ラッキーなことに、たどり着いた家は古いタウンハウスだが趣がある素敵な建物で、内装もおしゃれにしてくれていた。
一緒に住むことになるルームメイトとは到着して初めて話したが、フィンランド出身のとても面白い女性ですぐに仲良くなれた。
とにかく、そこにきちんと家があったことにほっとしながら眠りについたことを覚えている。
日本でも外国人の友人と話をすると、やはり家を借りることが一苦労だという話をよく聞く。
知らないものや異質なものに出会うと人は不安な気持ちになるらしい。特に会ったこともない相手に家を貸すのは当然不安になるだろう。ただ、不安を乗り越えて歩み寄ってくれる行動は、外国で暮らす外国人にとってはとても安心できる、ありがたい行動なんだな、と実体験を通じて感じた。