フェミニズムに対する誤解

「北欧フェミニズム入門」という本をプレゼントしてもらったので読んでみた。北欧語翻訳者である枇谷玲子さんが、さまざまな北欧のフェミニズムに関する文献を自身の観点と共に紹介していく同人誌的なかわいらしい装丁の本だ。

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000024480/

彼女は翻訳者というプロフェッショナルに対する社会的地位の低さに疑問を持っていたり、二人の子供がいる中で子育てや母親像を考えたりする自分の日常を北欧の文学や哲学、フェミニズム、教育などの本と関連しながら考察していてとても面白い。私自身が信じている個人的な話と社会的な話が分かりやすく融合されえていて興味深い本になっている。

さて、この本の中で「フェミニズムにまつわる典型的な疑問」という章があり、私が考えるフェミニズムと非常に近い考え方だったので紹介してみたい。

グレーテリース・ホルムという著者の「フェミニストのためのハンドブック」という本を紹介しつつ、フェミニズムの目指すところに関する疑問をわかりやすく描いている。

【男女の性差をなくすべきか?】
“フェミニストが男性と女性の性差をなくそうとしているというのは大きな誤解です。”とグレーテリース・ホルムは言う。これまでの公の社会の仕組みは男性が中心になって作ってきたものだ。男性主体で出来上がった政治、働き方、教育の仕組みにそのまま女性が入っていってそのままのルールでプレイすべきなのか?そもそものルール自体を男性と女性どちらにも合うようにゆっくりと変えていくことが大事なのではないか、と彼女は提案する。
私も同じようにフェミニズムをとらえていて、性差をなくすのではなく、「男が男らしく生きやすい社会」と同じように「女が女らしく生きやすい社会」を一緒に作っていけることが理想だと考える。「週に5日、9時から6時まで働くことが基本的に決まっていて、昇進したいなら残業や休日出勤も当然しなければいけない。」という社会の仕組みは当然のように扱われているが、子育てや勉強、趣味、身体的なプレッシャーを感じずに生きられる社会の仕組みを男女が一緒に考えていけることはどちらの性にとっても望ましいことなのではないかと思う。

【女性が男女平等を勝ち取ることで子どもたちが犠牲になるのでは?】
女性が家事労働(無償)を放棄して、外で働きに出るときに、子どもや家族にしわ寄せがいく。それに対して罪悪感を感じながらも、全てをうまくこなしているように振舞わなくてはならない。という風に考えてしまう女性は多いのではないだろうか。
しかし、女性が働きに出ることで家事がおざなりになったり、子育てができなかったり、介護が手薄になったりする問題は、「男女」の問題であり「社会」の問題なのだ。それを、「女性の問題」に集約して考えさせられていることが最も大きな問題だと感じる。
アメリカでも、1970年代後半にERA(Equal Right Amendment/男女平等の憲法修正案)をめぐる論争では「家庭や子供を守る主婦VSキャリアを追い求める女性」という構図をメディアが描くことで女性の社会進出は「女性の問題」であり男性には関係ないというイメージを植え付けられた。
女性が自分の人生を選ぶときに、「女としてあるべき姿」ではなく「自分のやりたいこと」を軸に選べることが健全だと思う。もちろん逆に、男性が家庭に入りたいと思ったときに自由に選べない社会的抑圧は存在するだろう。「男だから」「女だから」という枠組みで対立するのではなく、お互いに自由に選択できる社会構造を作っていこうという姿勢が、男女どちらにとっても生きやすい社会を目指せるのではないかと思う。

【フェミニストは攻撃的で男が嫌い?】
“どんなに客観的なデータであろうと、男女不平等を指摘すること自体が、男性に喧嘩を売っている、不愉快だ、と受け取られてしまう、、、、、黒人差別がいけないと言う人に、あなたは白人を敵視しているのですね、というのに近いように私は思います。”というグレーテリース・ホルムのコメントにとても共感する。

私は男性が好きだし、自分の父親もパートナーも男友達も大切だと思っている。フェミニストは「男が嫌い」なのではなく、「男性優位な社会」を問題視しているのだ。女性でも「男性優位社会を内在化」している人もたくさんいるし、もちろん男性でもそうだ。しかし、その個人を批判しているのではなく、構造上の問題を批判して建設的に語っていくことが大切だと考える。時々、男性と話をしながら「男性優位社会」を批判すると、「自分が攻撃された」と過剰反応をして反撃してくる男性もいるが、別にあなたが社会全体を創造したわけではないし、そういう社会構造を問題視していることが伝わらなかったりするのは残念に思う。
今回はフェミニズムに対する誤解がとても分かりやすくまとまっていたので、一部をご紹介したが、いろいろな視点でジェンダーやフェミニズムを考えられるとても面白い内容になっているので、ぜひ読んでみてほしい。

勝手に、訳者の枇谷玲子さんのサイトも紹介しておきたい。
http://reikohidani.net/

最後に、ここで語っているフェミニズムが「正解」というわけではないと思っている。自分自身がしっくりくるそれぞれのフェミニズムに多くの人が出会えますように。