“保守的な社会で育って“

インタビュー対象者:くぼの きょうこ(The F-Word監査)
インタビュー実施者:山名 景子

――自己紹介をお願いします。

テンプル大学で政治学を学んでいます。自分が生まれ育ったエリアでは政治とのつながりが強く、小さなころから政治に触れる機会が多かったので自然と政治学に興味を持つようになりました。また、10代のころにニュージーランドで生活を経験し、より政治に強い関心を持ちました。ニュージーランドで目撃した政治活動は日本とは大きく異なっており、衝撃を受けました。最も大きな違いは人々の政治参加への意識でした。国民の多くが自ら政治の情報を獲得し、学ぼうとする姿勢を持っているように感じました。そして、自ら積極的に選挙や政治活動に関わることによって社会を変革できると思っている人が多いように思いました。

日本では、もちろん全員ではないですが、多くの人が「政治家なんて誰がなっても一緒」「政治が変わっても自分の生活に影響を与えない」と思っているので選挙に行く人が少ないんだと思います。私も時々日本の政治に無力感を感じてしまうので、ニュージーランドでの生活を思い出して、常に情報を集め、批判的に考え、自分で決断できる個人でいることを心掛けています。だから、帰国子女/留学生と言われたり、自分でそう名乗ることは、日本人といっても異なる環境で育ってきてみんながみんな違うしそれが普通ということをプロモートせず、この社会の”完璧な”一員でないから適応してなくて当たり前と正当化しているようで苦手です。

――ジェンダー問題に興味を持ったのはいつですか?またなぜ興味を持ちましたか?

ジェンダーという言葉を知らないころから、自分が女性であることによって生きづらさや不平等を感じる経験をしてきました。例えば、弟が生まれたときに家族や親族が万歳していたのは今でも印象に残っています。私の家族は農家で比較的家父長制の考え方が強く残っています。そのため、農家の跡取りになる「男の子」が生まれたときに皆とても喜んでいました。その時に、幼いながら家族にとって「自分はいらないのかな?」という気持ちを持ちました。また、現在でも弟よりも自分のほうが農業に興味を持っていると感じていますが、農家を継ぐのは弟であるということを誰も疑うことなく信じています。このような、幼いころからの経験がジェンダーの問題であるということを明確に理解したのは、ニュージーランドでの生活を通しだと思います。比較的閉ざされた農家のコミュニティで育ってきた自分にとって、ニュージーランドで初めて、様々な考え方を持つ人々と交流し、視野が広がりました。

――日本の社会の中で、ジェンダーの面で一番驚いたこと、衝撃を受けたことは何ですか?

私の生まれ育ったエリアは保守的な考え方がベースとなったコミュニティで多様性を排除する傾向にありました。近所の多くが農家を営んでおり、神道を信仰し、自民党を支持していました。生活に根差したコミュニティの中で違う意見を持つことや発信することは非常に難しい環境でした。例えば、近所の集まりで自分の意見を主張すると、「女の子なのにでしゃばるな」と言われました。また社会的なハーモニーが一番の優先事項であるコミュニティだったので、言葉で私に直接言わずに、村八分的な感じであからさまに無視されたり、いじめられたりして精神的にすごく追い込まれたことがありました。性差別は女性の選択肢を奪うだけじゃなくて、セルフラブやセルフリスペクトといった人間が人間らしく生きるために必要な精神的要素さえも奪ってしまうんだなと感じました。

――ジェンダーの不平等に関する困難や苦労にあなたはどのように対処していますか?

ニュージーランドに行ってから、自分の意見を主張することに抵抗がなくなりましたが、帰国してからは「主張が強すぎる」「空気が読めない」などと言われることもありました。最初は気にすることもありましたが、嫌なことを言ってくる人たちとの距離の取り方を覚えることで対処してきました。

頭ごなしに私の考えを否定されるのは、やっぱり気持ちがいいものではないけど、私の親のようになりたくないという気持ちが強すぎて、日本の右翼の人が差別的言動をとる背景について学ぶようにしています。そうすることで、少なくとも自分の過去の無知が故の右翼的言動について振り返り、今までに出会ってきたデータや論文を基にそれらを批評し、自分が今後どういう行動を取っていくべきかが見えてきます。そして、私の姿勢や行動によって周りの人にも多少影響を与えられるかもしれないので、ジェンダーを含めた社会問題に対する日本の政治の反応がどんなに遅くても、「どうせ変えられない」と絶望せず、いつかは私自身がこの葛藤に踏ん切りをつけるのではなく、問題そのものが解決するはずだと前向きでいることを忘れないよう気を付けています。

――あなたのどの面が比較的男性っぽいですか?また、あなたのどの面が比較的女性っぽいですか?

昔は女らしさや男らしさについて気にしていて、幼稚園や小学生、中学生のころは男らしくふるまうことで、自分なりに日常で感じていたジェンダーでの生きづらさに反抗していました。でも、成長するにつれ、今度は女らしくも男らしくもないニュートラルでいたいと強く思うようになりました。多分どちらのジェンダーロールにも嫌気がさしていたんだと思います。だから、ジェンダーレスのファッションを好んだり、恋愛話に巻き込まれないようにしたり、男友達とも距離の取り方に気を付けたりしてました。でも、私は料理はそんな得意じゃないけど、人が悩んでいたら助けたいと強く思うように、それぞれが社会的に作られた女らしさと男らしさという概念に当てはまる要素を必ず持っていて、その複雑な組み合わせが私が誰かを示してると思うので、あまり「女らしさ」や「男らしさ」といったカテゴリーを気にしないようになりました。

――あなたの仕事または勉強における成功の定義とは何ですか?

私にとっての成功の定義は、誰かと比べるわけではなく、自分の中で成功だと感じた時だと思います。